産休前の時期は、従業員本人にとっても、チームにとっても大きな節目です。特に業務の引継ぎは、部署全体の生産性や顧客対応の質に直結するため、企業としても仕組みを整えておきたいところです。ただ、現場では「申し送りがうまく進まない」「引き継ぎが属人化して混乱する」といった声が少なくありません。背景には、準備期間の不足やコミュニケーションのすれ違い、そして“どこまで整理すれば十分なのか”という基準の曖昧さがあります。
こうした課題を解消するには、制度としてのサポートだけでなく、現場が実践しやすい具体的なステップを用意することが重要です。特に業務の可視化と共有ルールの整備は、業務継続性の観点から不可欠とされています。また、従業員が心理的負担を感じずに産休へ入れるよう、周囲の理解とサポートの仕組みづくりも求められます。産休前の申し送りを「個人の努力」に任せず、組織としてサポートする姿勢が離職防止にもつながります。
本記事では、産休前の申し送りをスムーズに進めるための実践ポイントを整理し、企業や管理職がすぐに取り入れられる方法をまとめております。
産休前の申し送りを阻む課題と整理すべきポイント
産休前の申し送りは「やればできる」ものではありますが、現実には多くの企業で混乱が起きています。その理由は、業務の複雑化や属人化、本人の体調変化、時間制約などが重なるためです。本章ではまず、典型的な課題を整理しながら、どこに対応すべきポイントがあるのかを解説します。
業務が属人化しており整理に時間がかかる
産休前にもっとも多い課題が業務の属人化です。引継ぎ資料を作ろうとしても、本人しか状況を把握していないため、まとめるだけで相当な時間がかかります。さらに、日常的にイレギュラー対応が多い部署ほど情報が整理されず、申し送りが「点」で終わりやすい傾向が指摘されています。
- 手順書がなく“口頭説明”に依存している
- 顧客対応の背景情報が本人しか把握していない
- 判断基準が共有されていない
これらは、産休に限らずチームの生産性低下につながるため、組織全体で改善していくことが不可欠です。
申し送り期間が不足し、引継ぎが形骸化する
もう一つの大きな課題は、申し送りの準備期間が不足することです。体調変化や急な業務繁忙などで引継ぎが後回しになり、結果的に「一週間でまとめて引き渡す」ケースが少なくありません。これでは、十分な理解が得られず、休職後にチームが混乱します。
申し送りを単なる「資料作成」で終わらせず、理解のすり合わせや実務トレーニングまで含めて計画することが重要です。
コミュニケーション不足による心理的負担
産休前は、本人も周囲も気を遣いがちです。そのため、業務の量や引継ぎ方法について率直な相談ができず、結果として「どこまで渡すべきか分からない」という心理的負担が大きくなるとされています。特に責任感の強い従業員ほど、申し送りを“完璧にしなければならない”と感じ、負担を抱え込みやすい傾向があります。
十分に相談できないまま当日を迎え、休みに入っても仕事が気になる…という状況は避けたいところです。
企業としては「最低限の基準」を明確にし、過度な情報整理を求めないことも大切です。
企業が実践できる申し送り改善の具体策
ここでは、企業がすぐに取り組める実践的な改善策を紹介します。これらは業務引継ぎの標準化にもつながり、産休に限らず、退職・異動などあらゆる場面で役立ちます。
ポイント① 必要な情報を最短でまとめる「業務可視化テンプレート」導入
まず最初に導入すべきは、業務情報を整理するためのテンプレート化です。テンプレート化することで、本人の負担を減らしつつ、受け取る側が理解しやすいデータを作れます。特に“目的・手順・判断基準”の3点セットを記載できるフォーマットは有効です。
| 業務の目的 | なぜ必要な業務か、成果物は何か |
| 作業手順 | 順番、注意点、使用ツール |
| 判断基準 | 例外時の対応、判断の優先度 |
これだけでも、情報の抜け漏れが大幅に防げるため、引継ぎ効率が向上します。
ポイント② 申し送りは「資料→面談→実務練習」の3段階で運用
申し送りを資料だけで完結させる企業は少なくありませんが、実際には理解のズレが大きなボトルネックとなります。そこで、3段階で申し送りを運用する方法を推奨します。
- (1)資料作成:必要な情報をテンプレートで整理
- (2)面談:業務の背景・判断ポイントを補足
- (3)実務トレーニング:後任者が実際に対応し、本人がフォロー
この流れを踏むことで、後任者の理解度が格段に上がり、休暇後の問い合わせも減少します。
ポイント③ 管理職が「業務負担の調整役」になる
産休前の負担を軽減するには、管理職の関与が不可欠です。特に業務棚卸しのサポートと優先順位づけは、部下の心理的負担を大きく軽減します。
管理職がすべての業務を「今必要なもの」「後任でも対応できるもの」「一時的に止めても良いもの」に仕分けることで、本人の過重負担を避けられます。
また、産休前だけでなく、妊娠中の体調変化に応じた業務調整も重要です。
スムーズな申し送りを実践する企業の取り組み例
ここからは、実際にスムーズな産休前申し送りを実践している企業の取り組みを紹介します。規模を問わず取り入れやすい内容なので、参考にしていただけます。
A社:標準化シートの導入で引継ぎ時間を40%削減
A社では、顧客対応業務が複雑化していたことから、業務標準化シートを導入しました。シートには目的・手順・注意点・判断基準の欄を設け、週次で更新する運用がされています。結果、産休前の引継ぎ準備が短時間で済むようになり、チーム全体の不安も軽減しました。
B社:申し送り専用「30日スケジュール」を制定
B社では、申し送り期間が十分に確保できない課題から、産休前の30日間を引継ぎ集中期間と定義し、予定表を標準化しました。資料作成、面談、実務練習をあらかじめスケジュールに組み込むことで、計画的に進められる体制が整っています。
産休前の申し送りを仕組み化し、安心して働ける職場へ
産休前の申し送りは、従業員のキャリア継続と企業の業務品質の維持に欠かせない取り組みです。業務の可視化、申し送りプロセスの標準化、管理職の支援体制が整えば、誰もが安心して産休に入れる職場環境が実現します。また、これらの仕組みは他の人事異動や休職場面にも転用でき、組織全体の強さにつながります。
そのためにも、ぜひ、本記事で解説した申し送りの仕組み化とコミュニケーション改善を実践ください。
(執筆・編集:エムダブ編集部)

