転勤は企業の成長や人材育成に欠かせない一方で、従業員、特に育児や介護を担う社員にとっては大きなキャリア上の壁となりがちです。転勤をきっかけに、やむを得ず離職を選択するケースは、今なお多くの企業で発生しています。
こうした中、近年は「どこでも働ける制度」によって転勤とキャリアの両立を実現する企業が注目を集めています。場所に縛られず働ける仕組みを整えることで、転勤による離職を防ぎ、人材の定着と活躍につなげているのです。
本記事では、転勤による離職が起きる背景から、リモートワークを軸とした具体的な打ち手、そして実際に離職ゼロを実現した企業事例までを整理し、管理職が今すぐ取り組めるポイントについて内容をまとめております。
転勤とキャリア継続を両立するための要点整理
まずは、転勤による離職を防ぎ、キャリア継続を実現するために押さえておきたい全体像を整理します。本章では記事全体の要点をまとめ、後続の具体策を理解しやすくします。
転勤=離職という構図をどう変えるか
これまでの日本企業では「転勤は当然」「応じられない場合は退職もやむなし」という暗黙の前提が存在していました。しかし、ライフステージの多様化が進む中で、この考え方は大きな転換点を迎えています。
転勤を理由とした離職は、個人の問題ではなく制度設計の問題であるという認識が、いま企業に求められています。
「どこでも働ける制度」がもたらす効果
リモートワークやサテライトオフィスの活用により、勤務地と居住地を切り離すことで、転勤による生活の大きな変化を最小限に抑えることができます。これにより、育児・介護と仕事を両立しながら、従来通りのキャリア形成が可能となります。
結果として、離職防止だけでなく、エンゲージメント向上や採用力強化にも好影響をもたらすとされています。
転勤が離職につながる構造と見落とされがちな課題
転勤制度そのものは古くから存在していますが、なぜ現在もなお離職の主要因となり続けているのでしょうか。その現象だけでなく、背景にある根本的な課題を掘り下げます。
現象:転勤を機に退職を選ぶ社員が後を絶たない
現場でよく聞かれるのは、「配偶者の仕事を優先したい」「子どもの転校が難しい」「親の介護がある」といった理由です。これらはいずれも、私生活と仕事の両立が困難になった結果として表出する現象です。
特に女性社員の場合、育児や介護の主たる担い手となる割合が高いことから、転勤が即、離職判断につながりやすい傾向が見られます。
根本原因:働く場所に縛られた制度設計
離職の根本原因は、「業務は本来どこでもできるにもかかわらず、出社を前提とした制度設計が残っている」点にあります。物理的な場所に縛られることで、家庭環境との両立が不可能になるのです。
制度が時代の変化に追いついていないことが、離職リスクを高めているという指摘もあります。
心理面への影響:キャリア断絶への不安
転勤によってキャリアが中断されるかもしれないという不安は、社員のエンゲージメント低下を招きます。「この会社で長く働けないのではないか」という疑念は、モチベーションや生産性にも影響を及ぼします。
結果として、転勤辞令が出る前に転職を検討する「予防的離職」が起こるケースも少なくありません。
転勤が離職につながる主な要因
- 配偶者の勤務地や転職の制約
- 子どもの教育環境の継続が困難
- 親の介護との両立が不可能
- 転勤後のキャリア評価が不透明
どこでも働ける制度を支える具体的な仕組み
転勤による離職を防ぐためには、単に「リモートワークを許可する」だけでは不十分です。制度として機能させるための具体的な仕組みづくりが不可欠となります。
フルリモート・ハイブリッドワークの整備
転勤対象者に対して、フルリモートまたはハイブリッドワークを選択可能とする制度設計が有効です。これにより、居住地を変えずに全国どこからでも業務を継続できるようになります。
通勤という制約を外すだけで、転勤は「異動」から「役割変更」へと意味が変わります。
評価制度とマネジメントの再設計
リモート環境下では、従来型の「在席管理」や「勤務時間管理」は機能しません。成果やプロセスを可視化し、アウトプットベースで評価する仕組みが不可欠となります。
これにより、転勤者であっても不利なく評価され、キャリア形成の連続性が担保されます。
ITインフラとセキュリティの整備
安全にどこでも働くためには、クラウドツールの活用やセキュリティ対策の強化が前提条件となります。社外からでも社内と同様の業務環境を再現することが、制度の実効性を高めます。
| 勤務形態 | フルリモート、ハイブリッドワーク |
| 評価制度 | 成果・役割ベース評価への転換 |
| IT基盤 | クラウド、ゼロトラストセキュリティ |
転勤でも離職ゼロを実現した企業の取り組み事例
ここでは、「どこでも働ける制度」を実際に導入し、転勤による離職ゼロを達成した企業の具体的な取り組みを紹介します。現場レベルでの運用イメージを掴んでいただけます。
A社:全国転勤を前提としない新たな人事制度
A社では、従来の全国転勤型人事制度を見直し、「転勤あり」「転勤なし」「フルリモート」の三つの働き方コースを導入しました。社員はライフステージに応じてコースを変更できる仕組みとなっています。
その結果、育児期の女性社員の離職率が大幅に低下し、管理職候補の母数も増加しました。
B社:転勤者専用のリモート配置と業務再設計
B社では、転勤対象者に対して、原則リモートで従事できる職務を再設計しました。業務の属人化を解消し、タスクを細分化・標準化することで、場所に依存しない業務遂行が可能になっています。
「転勤しても働き方は変わらない」という安心感が、社員の定着を支えています。
「夫の転勤が決まったとき、退職も覚悟しましたが、フルリモート制度のおかげでキャリアを継続できました」
管理職が今すぐ実践できる三つのアクション
制度を整えるだけでは、転勤による離職は防げません。現場で制度を機能させるために、管理職が担う役割は極めて重要です。
早期相談の文化をつくる
転勤の可能性が少しでも生じた段階で、本人と率直に話し合う場を設けることが重要です。早期に選択肢を提示することで、不安や誤解を未然に防ぐことができます。
業務の属人化を日常から解消する
特定の社員しか対応できない業務が多いほど、転勤やリモート化は困難になります。日頃からマニュアル化や業務共有を進めることが、制度活用の土台となります。
成果を正当に評価し、可視化する
リモート勤務者であっても成果が正しく評価される仕組みを示すことで、「離れて働くこと」への不安を払拭できます。評価の透明性は、エンゲージメント維持に直結します。
- 転勤の打診はできるだけ早期に行う
- リモート前提の業務設計を進める
- 評価基準と期待役割を明確に伝える
転勤とキャリアを両立させる企業が選ばれる時代へ
転勤による離職は、もはや「個人の事情」で片付けられる問題ではなく、企業の人材戦略そのものが問われるテーマとなっています。どこでも働ける制度を整えることは、優秀な人材を守り、長期的な企業価値の向上につながります。
実際に、リモートワークと転勤制度を両立させた企業では、離職率の低下だけでなく、採用競争力の向上や従業員満足度の改善といった副次的な効果も確認されています。
転勤とキャリア継続の両立は、もはや一部の先進企業だけの取り組みではありません。そのためにも、ぜひ、本記事で解説したどこでも働ける制度づくりと管理職の実践アクションを実践ください。
(執筆・編集:エムダブ編集部)

