時短勤務制度は多くの企業で一般化しつつありますが、「制度は作ったものの、現場では十分に活用されていない」「時短勤務の従業員が成果を出せず、周囲の負担が増えてしまう」という声は依然として多いとされています。特に女性従業員の場合、ライフステージの変化に伴い働き方を柔軟にする必要性が高くなるにもかかわらず、制度の使いづらさやキャリア停滞への不安が壁になるケースが目立ちます。そのため、企業側が時短勤務でも成果を出しやすい体制を整えられるかどうかが、離職防止とエンゲージメント向上の観点から非常に重要となっています。
そこで重要になるのが、制度利用者の負担が偏らないようにする業務設計の見直しとチームの協働体制づくりです。単なる制度提供にとどまらず、働き方の質を高めるための仕組みづくりを行うことで、時短でも十分に成果が出せる環境が整います。
こうした改善により、管理職のマネジメント負担が軽減されるだけでなく、従業員本人もキャリアを継続しやすくなるため、結果として組織全体のパフォーマンス向上につながります。本記事では、時短勤務でも成果を出せる仕組みづくりについて、考え方や課題、実際の取り組みをまとめております。
時短勤務の成果が伸びづらい背景と改善の方向性
時短勤務者が成果を出しづらい背景には複数の要因があり、制度の存在だけでは解決されません。ここでは主な課題とその根本要因を整理し、改善に向けた方向性を提示します。
業務が属人化しやすく引き継ぎが困難になる
時短勤務は勤務時間が限られるため、1日の中で「担当者として処理し切れない業務」が発生しやすくなります。この状況が続くと業務が個人に紐づき、属人化が進行します。その結果、周囲の負担増加や情報共有の遅延につながり、組織全体のスピード感が低下するという問題が挙げられます。
- タスクや顧客対応が担当者だけで停滞する
- フォローに入る人が状況を把握しづらい
- 作業手順が共有されずナレッジが蓄積されない
根本要因には「仕事の標準化不足」「情報共有の仕組みが弱い」などがあります。
評価制度が成果に連動せずモチベーション低下を招く
時短勤務をすると一部企業では「本来の働き方ではないため評価対象外になる」という考え方が残っています。しかしこの運用は従業員のやる気を損ね、エンゲージメントの低下につながると指摘されています。
特に、時短の理由が育児や介護の場合、本人が「頑張っても評価されないのでは」という不安を抱えやすく、成果を出すための工夫よりも防御的な働き方になりがちです。
改善のためには評価基準を時間でなく成果に寄せる設計が不可欠となっています。
心理的安全性が低く相談しにくい
短い勤務時間で成果を求められる状況では、業務負荷が高まると感じても周囲に相談できずに抱え込みがちです。原因の1つには「制度に甘えていると思われるのでは」という心理的不安があります。
「業務量が多いと感じていても、子どもの都合がある手前、なかなか言い出しにくいんです…」
このような声がある以上、企業は相談しやすい環境と明確な方針を整える必要があります。
成果を最大化するための企業の取り組みと成功のポイント
ここからは、時短勤務の従業員が成果を出せるようにするための具体的施策を解説します。取り組みはすぐに導入できるものが多く、全社的に実践しやすい点も特徴です。
業務の棚卸しと役割再設計の徹底
まず取り組むべきは、担当業務を「リスト化」「可視化」することです。業務棚卸しによって、何が属人化しているのか、どこまでが本人に必要な業務なのかが明確になります。
業務棚卸しは、時短勤務者の負担軽減だけでなくチーム全体の効率化にも直結します。属人化がなくなることで担当交代もスムーズになり、急な欠勤にも対応しやすくなります。
また、優先度の高い業務のみを本人が担当し、低優先タスクはチーム内で分担するなど、役割再設計を行うことでパフォーマンスが安定します。
情報共有ツールの導入とナレッジ蓄積の仕組み化
時短勤務者はフルタイム従業員に比べて情報接触時間が少なくなります。そのため、チャットツールやプロジェクト管理ツールなどが不可欠となります。ツール活用により、出社時間が異なる従業員同士でもスムーズに連携でき、情報の取りこぼしが防げます。
| チャットツール | 非同期コミュニケーションが可能になり、連絡抜けを防ぐ |
| タスク管理ツール | 業務の可視化で引き継ぎが容易になる |
さらに手順書やナレッジの蓄積を進めることで、時短勤務者だけでなくチーム全体の生産性が向上します。
評価制度の見直しとキャリア機会を確保する仕組み
A社では、時短勤務でもフルタイムと同様に評価対象となる「成果基準型評価」へ移行し、従業員の満足度が大きく向上しました。また、B社では時短勤務でも管理職に挑戦できる仕組みを整え、女性管理職比率の向上に成功しています。
こうした改革は、従業員の心理的安全性を高め、主体的な行動を引き出す効果があるとされています。
負荷の偏りを防ぐチーム運営の仕組み
チームリーダーが時短勤務者の業務量を把握し、必要に応じてタスク分担を調整することが不可欠です。また、チーム内で「誰でも対応できる業務」を増やす取り組みも効果的です。
たとえば以下のような工夫があります。
- 定例ミーティングで業務負荷を共有する
- 担当業務をローテーションする
- 複数名で特定業務をカバーできる体制を整備する
これらにより、時短勤務者本人もチームも無理のない働き方を実現しやすくなります。
働き方の改善が企業にもたらす組織的メリットと展望
ここまで紹介した取り組みを行うことで、従業員の離職率低下や生産性向上につながるとされています。また、働きやすい環境が整うことで採用力が強化され、企業ブランドの向上にも寄与します。
さらに、時短勤務者を含む多様な人材が成果を出せるようになることで、組織のイノベーション創出にもつながると期待されています。働き方の柔軟性は、今後の企業成長において欠かせない視点となるでしょう。
まとめ|時短勤務を強みに変える組織づくりへ
時短勤務でも成果を出せる仕組みは、単なる制度改善にとどまらず、企業の働き方全体をアップデートする絶好の機会となります。本記事で紹介したように、業務の棚卸しや評価制度の見直し、ツール活用、チーム運営の改善など、取り組める施策は多岐にわたります。
これらを丁寧に積み重ねることで、時短勤務が「制限」ではなく「強み」になる組織へ変化していきます。そのためにも、ぜひ、本記事で解説した取り組みを実践ください。
(執筆・編集:エムダブ編集部)

