育児期の社員が安心して働き続けられる環境づくりは、企業にとってますます重要なテーマになっています。特に女性社員は、出産・育児のライフイベントを迎えるタイミングでキャリアを中断せざるを得ない状況に陥ることも多く、優秀な人材が離職してしまうという課題を抱える企業も少なくありません。こうした離職は企業にとって大きな損失となるだけでなく、職場全体の知見・文化の蓄積が停滞する要因にもつながります。そこで求められるのが、育児期の働き方を支える制度や、柔軟な社内体制の構築です。多様な働き方を可能にする環境は、結果として企業全体の生産性を底上げする効果もあるとされています。 本記事では、育児をしながら働く社員が活躍できる制度について、実務レベルで導入しやすいものを10種類取り上げ、具体的なポイントをまとめております。
課題の背景と企業が直面する現実
育児期社員の離職が続く企業では、表面的な「復職制度」は整っていても、実際の運用面で課題が残っているケースが多いと指摘されています。本セクションでは、いま企業が直面している主要な課題を整理し、根本的な原因を深掘りします。
業務量の調整不足による負荷の偏り
育児期の社員はフルタイム勤務が難しいこともあり、勤務時間が短縮されることで業務キャパシティも制限されます。しかし現場では、役割や業務の再設計が不十分なまま従来と同じ量を任されてしまうケースも多く、それが負担増加につながります。根本的な原因としては、業務の属人化や整理不足が挙げられ、業務全体を俯瞰しにくい構造が問題として残ります。
心理的安全性の欠如
「迷惑をかけたくない」という心理から、育児期社員は周囲に相談しづらく、負担を抱え込みやすくなります。この背景には、評価制度が柔軟な働き方に適応できていない という課題も存在します。「時短だから評価が低くなるのでは」と感じる社員が多いことが、エンゲージメント低下につながります。
コミュニケーション不足による孤立
時短勤務で会議に参加しづらくなる、在宅勤務で情報が入りにくくなるなど、育児期社員が孤立してしまう要因は複数あります。これは職場文化やオンラインコミュニケーションの整備不足が要因とされています。特に育児と仕事の両立は精神的な負担も増えるため、孤立感は離職意向に直結しやすい点が課題です。
育児期社員を支える制度10選と企業での取り組み
ここからは企業が実際に導入しやすく、効果が高いとされる制度を10種類紹介します。A社・B社の取り組み事例も交えながら、制度の要点と運用面のポイントを整理します。
1. フレックスタイム制の柔軟運用
出社・退社時間を柔軟に調整できるフレックスタイム制は、登園時間や子どもの体調変化に左右されやすい育児期社員にとって大きな助けになります。A社ではコアタイムを廃止し、午前中に通院や送迎が必要な社員も働きやすい体制を整えています。
2. ハイブリッドワークの標準化
オフィス勤務と在宅勤務を組み合わせるハイブリッドワークは、移動負担を大幅に軽減する効果があります。B社では在宅と出社の割合を個別に調整できる仕組みを採用し、特に保育園の呼び出しが多い時期に柔軟な対応を可能にしています。
3. 業務の棚卸しと役割再設計
業務の属人化を防ぐため、作業の棚卸しを定期的に行い、業務量を可視化する仕組みが求められます。役割をチームで分担する体制は、育児期社員だけでなく全員の働きやすさにも寄与します。
4. 育児期限定の評価制度
勤務時間が短縮される期間だけ、成果指標を調整する企業も増えています。時間ではなく成果やスキル、チーム貢献度を基準にすることで、公平性と納得感が高まります。
5. 緊急時の在宅勤務オプション
子どもの発熱や感染症など、突発的な事態に対応できる「緊急時在宅勤務」は離職抑制に有効とされています。制度があるだけで心理的安心感が高まる点も大きな価値です。
6. 育児支援手当の導入
保育園料金の補助や、病児保育の利用補助など、経済的負担を軽減する取り組みです。A社では子どもの年齢に応じて手当額を変動させ、長期的に支援する仕組みを整えています。
7. マネジメント層への育児理解研修
育児期社員への理解が進まない背景には、管理職の知識不足や固定観念が影響しているとされています。研修によって「何が負担になりやすいか」「どんな声掛けが必要か」を学ぶことで、心理的安全性が高まります。
8. キャリア面談の定期実施
育児期間はキャリアに対する不安を抱えやすい時期でもあります。そのため企業はキャリア相談の機会を定期的に設け、長期的な視点でのステップを共に考える姿勢が求められます。
9. チーム内の情報共有ルール整備
会議の録画や議事録共有など、柔軟な働き方でも情報が途切れないようにする仕組みを整えることが不可欠です。B社では「誰でも途中参加できる会議設計」を推進し、孤立防止につなげています。
10. メンタルサポートプログラム
育児と仕事の両立は精神的な負担が大きく、メンタル面のケアを提供する企業が増えています。外部カウンセラーの導入や、先輩ママ社員が相談に乗るメンター制度も効果的です。
育児期社員が活躍できる職場づくりのまとめ
育児期の女性社員が辞めない職場づくりには、制度を整えるだけでなく、職場全体の文化やコミュニケーションの質を高めることが不可欠です。業務量の適切な調整、柔軟な働き方、心理的安全性の確保など、多角的な対応が求められます。企業全体で育児を支える姿勢を示すことが、離職率の低下とエンゲージメントの向上につながります。 そのためにも、ぜひ、本記事で解説した制度や取り組みを実践ください。
(執筆・編集:エムダブ編集部)

